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「祈り届ける憩いの場」
【東松島市】東松島市宮戸(みやと)潜ヶ浦(かつぎがうら)地区の木島(きしま)新一さん(70)は、同地区で東日本大震災の犠牲となった7人を弔うため「憩」と名付けた供養碑を建て、妻・澄子さん(71)と花きなど100種を育てている。「花は心を潤すもの。被災者や宮戸を訪れた方々を癒す憩いの場にしたい」と震災から10年間、憩から宮戸を見続けてきた。
震災当時、新一さんは、遺族やボランティアなど多くの人が宮戸を訪れ、犠牲者を弔う様子を見てきた。
「宮戸に来てくれた人が手を合わせる場所を作りたい」と考えた新一さんは、2012年、供養碑とその周りにお地蔵さまをまつり、それらを囲むように花々を植えた。
スイセン、レンギョウ、ヤマブキ、クリスマスローズなどの花きや、モモやユズなどの果樹約100種を管理する。
「震災直後は津波で流れてきたガレキや災害ごみの撤去に苦労した。撤去後は除草も必要で、やることが山積みだった」と当時を振り返る木島さん。「土壌の栄養が足りていなかったので、土の様子を見て堆肥を2~4㌧ほど使用し、土壌整備に注力した」と苦労を話す。
「場所によって混ざっているものが異なり、どこの土がどのような植物に適しているか見極める必要があった」と澄子さん。「今こうしてきれいに咲いた花をいろいろな人に見てもらい、喜ぶ姿を見ると苦労が報われる思い。体力が続く限り世話を続けていきたい」と笑顔で話す。
新一さんは宮戸の復興にも力を入れており、以前行っていた語り部活動に加え、地域の人々と、宮戸にまつわる絵本「新宮戸(しんみやと)八景(はっけい)物語(ものがたり)」を制作するなど、多岐にわたり意欲的に活動する。
夫妻は「震災の風化を防ぐためには、世代や被災地域の出身かどうかにかかわらず、震災について知ってもらう必要があると思う。潜ヶ浦という集落があった痕跡を残していきたい」と思いを力強く語った。