農業共済新聞記事バックナンバー
「品質重視の野菜栽培」
冬野菜は、寒い季節の鍋やおせち料理・煮物などに使われ、食の楽しみを彩る。寒さに負けず、愛情込めて冬野菜を栽培し、県の「農林産物品評会」などで受賞歴を持つ3人の農業者を紹介する。
【蔵王町】農業歴50年になる蔵王町円田地区の横山郁夫(よこやまいくお)さん(67)は、サトイモ45㌃、トウモロコシ90㌃を栽培するほか、繁殖牛3頭と子牛2頭を飼養する。
以前は酪農を営んでいたが、15年ほど前にサトイモとトウモロコシの栽培を始めた。「きっかけは、近年続発する異常気象への備えとして、リスク分散できると考えたからだ。昨年のような猛暑の年はサトイモの収量は減ってしまうが、トウモロコシが良く育つ。夏が涼しく雨が降る年はサトイモの質が良くなるなど、雄大な蔵王の恵みの水と土は、サトイモ作りに最適だ」と横山さんは話す。
サトイモ栽培は土作りからと考え、土壌改良資材や化成肥料、魚粉、麦(緑肥)を施す。この地域の土壌が、火山灰が風化した黒ボク土で透水性、通気性、保水性に優れていることも栽培に生かしている。
5月に種芋を定植し、除草作業、土寄せや追肥を行い、9月末から10月に収穫する。昨年の夏は高温が続き雨も少なく生育を心配したが、収量は若干少なくなったものの、例年と変わらず消費者に喜んでもらえたという。
横山さんが栽培する品種は「土垂(どだれ)」で、ねっとり感が強く、煮崩れしにくい特徴があり、芋煮や煮物などに向いている。「素揚げやコロッケにしてもおいしいよ」と横山さん。
「まずいものは作らない」を信念に栽培し続ける横山さんは、「毎年、サトイモもトウモロコシも収穫を楽しみにしてくれている人がいるので、真摯(しんし)に栽培していきたい」と熱心に話す。(本郷)
【大崎市】「夫が教えてくれたことを忘れずにこれからも高品質の菌床シイタケを作っていきたい」と話すのは大崎市田尻の伊東茂子(いとうしげこ)さん(69)。ビニールハウス1棟で菌床3800個を管理する。
シイタケ菌床栽培は、一昨年に急逝した夫が始めた。受け継いだ伊東さんは、10月上旬から正月にかけて収穫を本格的に行い、JA新みやぎを通して県内のスーパーに出荷している。
伊東さんは「シイタケは鍋や煮物はもちろん、肉厚で火を通しても縮まらず唐揚げや蒸し焼きもおいしいので多くの人に食べてもらいたい」と話す。
菌床は、6月に市内の法人「みちのくきのこ館」から購入。袋に入った状態で棚に縦に並べ、7月末に袋をカットして、1週間逆さまの状態にして水を抜き、その後、元の状態に戻してゴムバンドをかけて毎日散水する。
培養中にできた白い膜を取り除くため3、4回水圧で上面洗浄を行うことで、菌や水が浸透しやすくなり、シイタケの発生を促す。
また、菌床を木づちでたたいたり、棚を移動させたりして刺激を与え、シイタケの発生を促進させる。
「ハウスを毎日見に行き、天窓の開閉や暖房を調整し、朝と昼で約10度の寒暖差になるように心がけている。湿度や温度、水管理など基本を徹底している」と伊東さん。「今後は経営を現状維持し、健康で元気にシイタケの栽培を続けていきたい」と笑顔で話す。(青砥)
【東松島市】「寒いこの時期、鍋にネギは欠かせない。たくさんの方に喜んでもらえるよう努力したい」と話すのは、東松島市赤井の後藤喜久雄(ごとうきくお)さん(69)。「やるからには、肌がきれいで味も良いネギを作りたい」と、日々努力を続けている。
高校卒業後就農し、専業でトマト栽培をしていたが、37歳のときに地元のJAに就職したため、勤めを持ちながらでも管理しやすい長ネギ栽培に切り替えた。在職中は、10㌃の長ネギ畑を休日や帰宅後など、時間を有効に使って管理。退職後、2022年に作付面積を30㌃に拡大し、専業での長ネギ栽培を開始した。今では、JAいしのまきに出荷するほか、県内10店舗のスーパーに納品している。
年に4回(1月、3月、5月、6月)播種する通年栽培に取り組み、経営の安定を図る。品種は、「碧(あお)い海原」「夏扇(なつおうぎ)パワー」など計5種類を、季節ごと栽培する。
「ネギはみんな同じ味で変わりないと思われがちだが、品種によって味や食感など異なる」と後藤さん。営農指導員を務めた経験を生かし、柔らかさや食味の良さを見極め、東松島市の気候や自分の営農に合った品種を選定する。
「消費者の安全・安心のため、農薬をできるだけ使わないことを心がけている」後藤さん。「慣行栽培をしていて通常の約半分に抑えているが、さらに今の半分まで低減させることが目標。今後も通年栽培を続け、さらに品質の良い長ネギを作り続けたい」と意欲を見せる。(浅野優)